あこがれた音色

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「……それ、あんたに関係ある?」 名前も知らない人に、そんな確信をつくような言葉を言われたくない。 僕は好きでクラリネットを吹いているんだから、楽しいかなんて訊かれる筋合いはない。 「私、あなたならもっと上手く吹けると思うのよ。だからーー」 「何? あんたまで言うの? 僕には伸びしろがあるって?」 「あら、自分で分かってるの?」 なんだ、こいつ。なんだこいつ、なんだこいつ、なんだこいつ! 「僕は僕なりに一生懸命やってる! それなのに伸びしろってなんだよ! まだ伸びるってなんだよ! 僕に何が足りないわけ? どうやったら僕が本気だって伝わるんだよ!」 完全なる八つ当たりだ。我ながら情けない。 けれど口をついて出てきた言葉を今更飲み込めない。 謝った方がいいのは分かっていても、頭に血が上っている僕は「ごめんなさい」が言えなかった。 きっと彼女は気分を害して教室を出て行くだろうと思った。 それなのに、彼女は心底不思議そうな顔をしただけだった。
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