UN LOVERS

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しかし、私はこうも思う。危険を犯すまでして己の身を焦がすものは、最早一種の幸せとも言えるだろう。 なぜなら私は、運命と呼べるロマンスを日々期待している、危険とも遊びとも縁遠い人生を送っているからだ。 ざわめく一室。充満する煙草とアルコールの匂い。テーブルのあちこちに散らばった噂話と諍いの種。 脆くて歪んだ空間は、お酒という一種の麻薬によって平和に形成されている。 「判断間違えると致命傷になるだけだって」 誰かの声が鼓膜にこびりついた。 「本気になるだけ無駄よね」 「でも夢見るだけタダじゃん?」 「やめときなって。響先輩とか、やばそう〜」 こういう場に於ける女子たちの話題は一種の銃弾だ。 本当に静止?それとも、圧力。 だれもが散弾銃を背中に抱えて、いつ来るやもしれない争いに控えて構えている。 私は「だよね」とか「わかる」とか、誰も気にしないような、空気みたいな共感を与えて、自分に銃口が向けられないようにと必死で笑顔を貼り付ける。 無理して参加してんの?……馬鹿? 私の本音を知る誰かは、こんな私を嘲笑うだろう。 誰か、イコール、私を共犯者に仕立てあげた容疑者Xの方をこっそりと盗み見た。
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