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うろうろと視線を下ろし、行き場のない手を膝の上に置く。どこまで情報を与え、貰ってよいのか、判断が分からない。
世の“一夜限りの男女”とは果たして、どんな距離感で振る舞っているのだろう。
「……てかにーなちゃん、何も飲んでなくね?」
響先輩が異変に気づくので、ぎくりと冷や汗をかく。
「えっと……どこに置いたか分からなくなっちゃって」
苦し紛れの言い訳と分かって、思わず視線を移動させた。知らない誰かの手の中に、私が飲むはずだったファジーネーブルが居た。今生の別れを告げた私の相方だ。
「は?もう1回頼めよ」
「なんか雰囲気的に出にくくて……」
「頼んでくるわ、スクリュードライバーでいい?よく飲んでるっしょ」
「(なぜ、それを)」
再び浮上する、境界線が曖昧な疑問。果たして、踏み込んで良いものか。
悩む私を他所に、響先輩は「誰かに話しかけられても、宇宙人だと思って」と私に言い渡す。なぜ宇宙人なのか。意味不明な命令は五秒で破棄することを決めて、一応頷く。
すると響先輩は次に誰かを手招きし「ごめん、ここに居て。右は絶対に向くなよ」と言い残してどこかへ行ってしまった。何だったんだ。
「なんで右?」
隣人を言い渡された人も同じ疑問を抱いていた模様。
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