914人が本棚に入れています
本棚に追加
誰か、ではなく、悠來先輩だ。
「(ゆ、悠來先輩……!)」
私にとっては宇宙人との遭遇よりも緊張する。
切れ長の瞳と通った鼻筋、センター分けにされた紺色の髪。初めて間近で見る憧れの人に萎縮するのは妥当だろう。
「悠來、お願いあっち行って、いやあっち行け」
「ひど。勝手に振るなよ」
「俺、お前の相手出来ねえから。いま、100こくらいある聞きたいことまとめてるから、向こう行って?」
「誰?」
弾先輩越しに悠來先輩と出会う。
「こ、こんばんは……」
本日二度目の挨拶を贈る。一度目はスルーされたそれを、悠來先輩が受け取る。
「……ああ、響の」
「(響の?)」
納得する悠來先輩と、謎が膨らむ私。言葉っていうのはキャッチボールらしい。でも、こうもあちらこちらに渡されては、キャッチするタイミングも分からない。
「仁菜〜、来てたの?」
ふと、知った声が鼓膜に触れた。
「おつかれ、来てたなら言ってよ」
それは満面の笑みを浮かべた鈴乃たちだった。鈴乃はすぐに悠來先輩たちへと視線を移す。知識も無い私だけど、空気はよく読めると思う。
「悠來先輩たちも、おつかれ様です」
「何飲んでるんですか?」
突然大人数へと変化し、圧迫感に晒された空気が薄くなった。
「(……響先輩、遅いな、)」
苦手意識を持っているその人に助けを求めてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!