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空気を求めるように、その空間から逃げ出した。点在するライトの明かりでなんとか場が見渡せる空間。空気の次は明かりを求めて、個室を後にした。長い廊下に出て、途端に酸素が戻り肺が喜ぶ。
「(……響先輩は)」
周囲を見渡すと、響先輩はバーカウンターの辺りで、女性と話していた。大学の先輩なのか、はたまた店に居合わせた一般客なのか判断は難しい。けれども、綺麗な女性であるのは違いない。
「(……なんだ)」
そうして気付かされる。響先輩を待っていたのは、どうやら私だけだったらしい。
響先輩に話し掛けられて嬉しかったのも私。
響先輩の気まぐれに振り回されて凹んでいるのも私。
私が勝手に喜んで、勝手に傷ついているだけ。
合意の上で関係を持ったのも私で、あの夜の責任は全部私にある。
「にーな」
モヤモヤしていると、平坦な声が私を呼んだ。響先輩だった。
「なにしてんの」
その不機嫌さを鼓膜で感じ取る。何してんの、と言われても。
「さがしに……」
「探しに?」
「……響先輩を、探しに」
真実は別にあるけれど、嘘ではない。
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