UN LOVERS

3/3
前へ
/207ページ
次へ
白状します。盗み見たのはこの二時間で初めてではない。その事が私ばかりが意識し、期待していることを示唆していて虚しさを覚えてしまう。 名前がどう変われど、この矢印は永遠に一方通行。n回目の挑戦で、私の周りだけ喧騒が鳴り止んだ。 友人と談笑し、片手にグラスを持つ彼と目が合う。 耳元で光るシルバーのピアス、毛先を遊ばせた少し長めの黒髪、気怠げに崩された姿勢、清潔感のある服装。 横に流れた瞳が私を捕まえると、涼し気な口元にほんの僅かな笑みが乗った。 待ち望んだ邂逅は、飛行機が自分の真上を横切った時のように私の心臓を高鳴らせ、たった一瞬をまるで永遠と錯覚させる。 「仁菜にいな聞いてる?」 「あ、うん、ごめん。……なんだった?」 「だから、今度の休みにさあ……」 私は無意味な会話に戻る。彼もまた日常に戻る。 この繋がりは誰にも言えない。 彼もまた無意味な情報を提示しない。 口にすると途端に永遠が逃げてしまうのを私は知っているし、私と彼の関係をこの場で宣言してしまうと、私は女子たちが背負うライフルで、一斉に蜂の巣にされてしまう未来も、理解しているのだ。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

792人が本棚に入れています
本棚に追加