911人が本棚に入れています
本棚に追加
至近距離にあるSランクのご尊顔。フィルターもなければノーファンデでこの肌は、正直、嫉妬すら覚えてしまう。
「私が響先輩の情報を誰かに提供するかも、とは思わないんですか?」
今日の私はどうかしている。簡単な嫉妬から派生した、拙い駆け引きをするなんて。
響先輩は綺麗に作られた笑顔を崩さない。
「本当にする子だったら、俺と寝た段階でそうしてる」
変な信頼を寄せられてしまった。確かに、脅された時点で反撃出来たはずだ。自分の防御力の無さに辟易する。
兄が言った。攻撃も大事だけど防御も同じくらい大事だと。特に、守ってばかりの敵は怖い。致命傷ってのはそういう時。油断を誘って攻撃するやつがいちばん怖い、と、RPGのゲームに例えて教えてくれた。
「いないよね、どこいったんだろー……」
「連絡先聞きたかった」
「ま、誰かに聞けば良くない?」
「でも、元カノになりすました子いるから、ガード硬くなってるらしいよ」
「え、だるー……」
近くで囁かれる噂話。ささやかな声たちを鼓膜は全て拾うのでやるせない。
「(元カノって、なりすまし出来るものなんだ)」
カルチャーショックである。隣を見上げた。少しの興味も無さそうな響先輩は、頬が触れそうなほど身を寄せた。
「にーな、」
微々たる震動すら感じ取られるほどの距離。甘さを孕んだ声。
そして私は当たり前のことを知る。
「抜けよっか」
誘惑はいつも甘い。
最初のコメントを投稿しよう!