シークレット・モーメント

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至近距離にあるSランクのご尊顔。フィルターもなければノーファンデでこの肌は、正直、嫉妬すら覚えてしまう。 「私が響先輩の情報を誰かに提供するかも、とは思わないんですか?」 今日の私はどうかしている。簡単な嫉妬から派生した、拙い駆け引きをするなんて。 響先輩は綺麗に作られた笑顔を崩さない。 「本当にする子だったら、俺と寝た段階でそうしてる」 変な信頼を寄せられてしまった。確かに、脅された時点で反撃出来たはずだ。自分の防御力の無さに辟易する。 兄が言った。攻撃も大事だけど防御も同じくらい大事だと。特に、守ってばかりの敵は怖い。致命傷ってのはそういう時。油断を誘って攻撃するやつがいちばん怖い、と、RPGのゲームに例えて教えてくれた。 「いないよね、どこいったんだろー……」 「連絡先聞きたかった」 「ま、誰かに聞けば良くない?」 「でも、元カノになりすました子いるから、ガード硬くなってるらしいよ」 「え、だるー……」 近くで囁かれる噂話。ささやかな声たちを鼓膜は全て拾うのでやるせない。 「(元カノって、なりすまし出来るものなんだ)」 カルチャーショックである。隣を見上げた。少しの興味も無さそうな響先輩は、頬が触れそうなほど身を寄せた。 「にーな、」 微々たる震動すら感じ取られるほどの距離。甘さを孕んだ声。 そして私は当たり前のことを知る。 「抜けよっか」 誘惑はいつも甘い。
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