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響先輩はベッドに浅く腰かけると、私の手首を優しく掴んで自身の上に促す。素直に跨ると、至近距離で目が合った。何か今から儀式のようなものが始まるのを予感めく。
「なあ。払わなくていいから、舐めて」
「……え?」
「こないだ教えたっしょ」
教えた、と言われても、全く身に覚えていないので答えに詰まる。考えあぐねていれば、響先輩が蠱惑的な笑みを浮かべた。
「……覚えてないの?」
「ごめんなさい、全く……」
「そ。道理でキスが初心者に戻っていると思ったわ」
「……キス?」
いつ上達したのか、そして下手になったのか。
自分のことが分からない。それが私の不安をおそろしいまでに煽る。しかし、私とはちがい、完全に余裕な表情の響先輩は私の頬をゆるりと撫ぜると、私の髪を指で掴んだ。
「にーなから求めてきたのも忘れた?」
知らない、知るはずない。
「手も、こんなふうに恋人繋ぎして、あんなに気持ちよさそうにしていたのも?」
やめて欲しい。……やめてください。
「キスしながらイッたのも全部?」
強請る猫みたいに、甘えた声で囁かないで。
「ど、どこまで嘘で、どこまで本当、ですか」
強がりたくなってしまう。
「何処までだろうね」
また、答えを躱されてしまい、心臓がぎゅっと狭くなる。
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