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私の恋愛偏差値が低すぎるから?それとも、これは駆け引き?それとも、単純に揶揄っているだけなのか、私はわからない。
「……ずるいです」
「ずるい?」
わたしばかり煽られている。悔しい。私が反論しないって思われているんだ。ううん、たとえ私が反論しても、響先輩にはかすり傷にもならない。
「処女捨てたかったのは私だけど、響先輩だからお願いしたのに」
望み通り、煽られてやる。私のステータスは守りに全振り。たまの攻撃を、お酒のせいにする。どうせ効かないだろうけれど。
「私ばかり忘れていて、響先輩は覚えているの、狡いです」
上目で見上げて、響先輩を覗き込む。
響先輩にとって、女性は金魚すくいの金魚のようなものだろう。見掛けはどれもほとんど同じ。掬って、愛でて、その後餌もやらずに水槽の中で泳がせるだけ。金魚が喋っても分からないし、きっと気付きもしない。
「じゃあ、思い出してみようか」
突然、その綺麗な顔が近づく。咄嗟に目を閉じた。しかし、何のアクションも感じない。響先輩は唇が触れ合うかの距離でピタリと静止していたのだ。
至近距離に映るのは無機質な瞳。獣のような獰猛な光が宿されている。その顔は笑顔。強力な矛。
あまりに綺麗なものは、恐ろしさを感じる。底知れない恐怖に当てられた私の背中に冷や汗が流れた。
響先輩が私に噛み付いた。
そこから私は何か一つでも、自由に考えることが出来ただろうか。
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