きみと私の降伏論

5/23

267人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「……居ません。ちなみに、響先輩は?」 「いねえよ。これで居たら鬼畜っしょ」 「(その可能性が捨てきれないから聞いたんです)」 言うと必ず意地悪される(これは多分、絶対)、ので、口を噤んだ。 「どれくらい居ないんですか?」 「1年くらいかな。にーなは」 「私も、同じくらいいません」 「高校の時、彼氏とシなかったの?」 何気なく聞かれた質問なのに、ドロっとした感情が胸の内側を撫でる。 「……出来ませんでした」 今でもはっきりと思い出される彼のあの時の表情、乱された制服と、シーツの感触、整髪剤の匂い。出来ない自分が欠陥品のように思えて、次第に、性行為そのものか苦手になった。 「シなかった、じゃなくて、出来なかった?」 「なんか、ぜんぜん、……濡れなくて」 何度か試した。その度に気持ちいいよりも怖いが募るばかりで、そのうちぎこちなくなって、お互い諦めるようになった。 高校生にとって、性の問題が別れに直結するのは容易かった。 「その元彼、童貞?」 「さあ、分かりません」 そんなの聞ける雰囲気でもなかったし……。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

267人が本棚に入れています
本棚に追加