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「……居ません。ちなみに、響先輩は?」
「いねえよ。これで居たら鬼畜っしょ」
「(その可能性が捨てきれないから聞いたんです)」
言うと必ず意地悪される(これは多分、絶対)、ので、口を噤んだ。
「どれくらい居ないんですか?」
「1年くらいかな。にーなは」
「私も、同じくらいいません」
「高校の時、彼氏とシなかったの?」
何気なく聞かれた質問なのに、ドロっとした感情が胸の内側を撫でる。
「……出来ませんでした」
今でもはっきりと思い出される彼のあの時の表情、乱された制服と、シーツの感触、整髪剤の匂い。出来ない自分が欠陥品のように思えて、次第に、性行為そのものか苦手になった。
「シなかった、じゃなくて、出来なかった?」
「なんか、ぜんぜん、……濡れなくて」
何度か試した。その度に気持ちいいよりも怖いが募るばかりで、そのうちぎこちなくなって、お互い諦めるようになった。
高校生にとって、性の問題が別れに直結するのは容易かった。
「その元彼、童貞?」
「さあ、分かりません」
そんなの聞ける雰囲気でもなかったし……。
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