ワンナイト・ラブストーリー

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はぁ…………と、再び盛大なため息を吐き出して、トイレを後にした。 「なあ、二次会どーする?悠來は行くらしいけど」 ふと、喫煙室を横切った際に会話が聞こえてきた。ドアが少し空いているらしい。おまけに、悠來、というワードに、思わず耳が贔屓する。 二次会、私も行きたいな……。でも行ったら陰口言われそうだし、行けないかなぁ……。 願書を心に書き留めていると、 「俺、パス。金がねえわ」 耳障りのよい声が、アルコールに浸った鼓膜に触れる。 「また?バイト代出るまでまだ日にちあるじゃん、どーすんの」 「まあ、なんとかなるっしょ」 「響だったら、ママ活したら1時間3で稼げるんじゃない」 先程聞いたばかりの固有名詞。響、と呼ばれたその人は、自分を揶揄するような金額に対して喚くこともせず、怒りもせず、余力を残した笑みを浮かべて「……3?」と、色気たっぷりに答えた。 「足りねえってか、えぐ」 けらけらと楽しそうな笑い声が弾ける喫煙所。 私たちの学年で、響先輩の名前を知らない人は居ないと思う。 四年生の一軍男子の中でも特に有名な人だ。 お顔はもちろん芸能人並みのご尊顔。小さな顔の中に、Sランクのパーツがきちんと収められている。 すらっとした華奢な体格と、クールな雰囲気は近づき難いイメージがあるけれど、笑った顔は大変可愛らしいこのギャップにやられている女子生徒の多いこと。
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