親友になって三年も経つとパニクっていても何を言いたいのかくらいわかる。

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親友になって三年も経つとパニクっていても何を言いたいのかくらいわかる。

 サークル室の扉を勢いよく開ける。部屋の中で振り返った恭子が、どうしよう葵、と駆け寄って来た。落ち着け、と言い放ちすぐに扉を閉める。そして窓を確認した。よし、閉まっているな。外に音は漏れないだろう。 「どうしよう。ねえ、どうしたらいい? 私、やっぱり責任を……!」  パニックを起こす親友を抱き締める。背中を擦り、大丈夫、と囁いた。しばしの間、恭子の荒い息だけが響いた。そんな我々の足元には。  股間を押さえて倒れる八戸君の姿があった。 「でも、彼の子種を……!」 「その言い方はやめろ」  恭子から電話が掛かって来たのは十分前、午後三時半過ぎのことだった。あい、と応じると、どうしよう、と受話器の向こうで絶叫した。早々に左耳がやられたので右耳で続きを聞く。 「何が」 「股間を、私、八戸君が、だって断っても縋って来て、肩を掴まれて、でも足を振りぬいたから、彼、将来が、私、責任を、ねえ、股間を押さえて、倒れて、動かなくて、息はあるけど、彼の子種は大丈夫かしら!!」  恭子と親友になって丸三年が経った。十か月後の三月には我々も大学を卒業せねばならない。それはともかく、そのくらいの長さの付き合いがあればパニックを起こしていようが言いたいことくらいは察せられる。 「わかった。お前ら、今何処に居る?」 「サークル室!」  すぐ行く、と伝えて電話を切る。足早に向かいながら恭子の主張を整理する。八戸君に告白をされて、断ったけど肩を掴んで縋られた。怖くなって股間を蹴り上げたところ、倒れて動かなくなった。足を振りぬいてしまう程の勢いだったから、彼の子種は大丈夫かしら、場合によっては責任を取らなきゃいけないかも、と。こんなところかね。恭子自身も怖い思いをしただろうに、迫って来た後輩の心配をするなんてあいつも甘いな。私はと言えば我が親友をそんな目に遭わせた一年生のクソガキに、どんな鉄槌を下そうかと怒りに燃えていた。入学早々、いい度胸じゃねぇか。さあ、働け、我が脳みそ。全力全開で作動し恭子を守り抜くとしよう。
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