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◆◇◆◇
「ありす〜、そろそろ帰ろ〜」
「え〜、もっと遊びたい〜」
「じゃあ、あと、5分だけだよ〜」
彼と並んでベンチに座り、そう言った私の手を彼が他の人から見えないようにこっそりと触れてきた。彼の体温を感じる。ただそれだけのことでも幸せになれる。
「しにゃうしてきたでんしゃにのって、あなたのまちをたずねます〜」
ありすとしーちゃんが、並んでブランコを漕ぎながら大きな声で歌っている。
「あっ、また新しい歌」
昨日の歌はしーちゃんが教えてくれたとありすは言っていた。ということは、この歌もそうなのだろうか?
「あの歌は、しーちゃんパパが教えた歌なの?」
「いや、俺じゃない。初めて聴く歌だと思う」
しーちゃんパパではなく、誰にしーちゃんは教わったんだろう。幼稚園の先生だったら、ありすも先生に教わったと言うだろう。私やしーちゃんパパが知らないだけで、子どもたちの間では流行っている歌なのだろうか。
「しにゅうって何だろう?」
ふとした疑問を口に出すと、すぐにしーちゃんパパが答えてくれた。
「たぶん、しにゅうじゃなくて、進入じゃないかな。電車がホームに進入してきたって歌っているんじゃないか」
「なるほど。それなら意味わかるね」
しーちゃんパパたちと別れての帰り道、ありすに訊いてみた。
「今日、ブランコで歌っていたお歌は誰に教えてもらったの?」
「しーちゃんだよ」
元気よく、笑顔で答えるありす。そしてまた、思い出したかのように歌い始めた。私はその歌を聴きながら、マンションのオートロックを解除した。
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