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◆◇◆◇
夜になって上がり始めたアリスの熱は、日付が変わった頃、39度近くまで上がってきた。昼間の雨で風邪をひいてしまったのだろうか。顔が赤くなり、体が熱くなってきている。夫は出張で今日は帰らない。ありすが寝たら、しーちゃんパパと会って、彼に好かれることならなんでもやろうと思っていたが、泣く泣く諦めてありすのそばにいて正解だった。
救急車を呼ぶか? 一瞬迷うがまだそこまでではないだろう。冷却剤を脇の下に貼った。確か解熱効果のある坐薬が冷蔵庫にあったことを思い出して、キッチンに取りに立ち上がった。冷蔵庫を開けて、坐薬を探していると、寝室の方から何か聞こえてきたような気がした。
「ありす?」
熱で魘されだしたのだろうか。坐薬探しを中断して、寝室に戻った。
「ま……ま……あ」
「ママいるよ。ありす、大丈夫。あり……えっ」
違う、ママと言っているんじゃない。魘されているんじゃない。
ありすは歌っているのだ。注意深く、言葉を拾っていく。
「ますますあなたにあいたくなった
いますぐあなたにあいたくなった」
少し掠れた声ではあるが、確かにこう歌っている。これもしーちゃんに教わった歌なのか?
背中を冷たい何かに撫でられたような嫌な感覚になる。ありすは相変わらず、歌っている。
コロコロコロコロまわるよしゃりん
ガタゴトガタゴトはしるよでんしゃ
しにゃうしてきたでんしゃにのって あなたのまちをたずねます
いきをかけるととんでいく
どこまでどこまでとんでいく
ますますあなたにあいたくなった
いますぐあなたにあいたくなった
ダカラワタシハアイニキタ
ありすの声じゃない。歪んでいたが、明らかに大人の女性の声だ。
ありすがゆっくりと立ち上がる。見開いた目は黒目がなく、血走っている。
「あ、あ、あ、ありす」
ありすはあの歌を歌いながら、私の方なゆっくりと歩いてくる。一歩進むごとに、短かった髪が伸びていき、身長も大きくなっているような気がする。
マスマスアナタニアイタクナッタ
もう後数歩で私に、手が届く距離になる。
イマスグアナタニアイタクナッタ
逃げなきゃ、そう思っても体が言うことを聞かない。
ダカラワタシハアイニキタ
もう目の前にありすだった女が立っている。
コロシニイキマスフテイノオンナヲ
女は私に息を吹きかけてきた。私の体温、私の意識、私の魂まで吹き飛ばすように。薄れていく意識の中、ありすの歌声が聞こえた気がする。
コロコロコロコロまわるよしゃりん
ガタゴトガタゴトはしるよでんしゃ
しにゅうしてきたでんしゃにのって あなたのまちをたずねます
いきをかけるととんでいく
どこまでどこまでとんでいく
ますますあなたにあいたくなった
いますぐあなたにあいたくなった
だからいまからあいにいく
ころしにいきます
ふていのおんなを
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