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2人きりの配信
「じゃあね〜またねっ!みんな!おやすみ〜」
「ありがとう!バイバイ〜」
ふう〜っと、二人同時に息を着く。
今日は、るい君と俺の二人配信の日で……
俺は、るい君の自宅にお邪魔してる。
もう、何度も来てるこの部屋、割とシンプルで、あまり物は置いてないけど、アンティークが好きだと言う彼の部屋には、お気に入りだと言う趣味の良い家具が置かれており、穏やかな…とても寛げる空間が広がっている。
なんだか懐かしいような感覚の部屋だ。
けど……るい君への感情を自覚してしまって、彼を意識し始めてからは……
来る度に、2人きりになる事が本当に落ち着かなくて…… つい、他のメンバー2人を探したくなる。
「んじゃ、お疲れ〜俺帰るわ……」
「え、なんで?もう遅いし、泊まってけばいいじゃん。明日は、打ち合わせ入ってるし、そのまま一緒に事務所行こうよ〜」
はいっ!と、赤いチェックのパジャマをポンと渡される。
何度目かのお泊まりの時、似合いそうだから買っといた〜と、不意に渡された物で……るい君家に保管されている……俺のパジャマ。
あんまり物を増やすのが好きじゃない……と言う、るい君なのに。
わざわざ、俺のパジャマを置いてくれてる……と思うと、なんだか胸がギュッとなる。
パジャマを抱きしめるように胸に持つと
「じゃ……お言葉に甘えて〜シャワー借りるね……ありがとうね」
照れながら……バスルームに向かう。
いいえいいえ〜と笑いながら答える声が後ろから聞こえた。
ふんわりと湯気に包まれ、柔軟剤の良い香りのするパジャマに袖を通すと、柔らかなタオルで髪の雫を押さえながら出る。
「はい、ここ座って〜」
るい君が自分の前の場所をポンポンと叩いている……そして、手にはドライヤー。
これは、乾かしてくれると?
「お願いしますっ」
と、チョコンと彼の前に座る。
人に髪を乾かして貰うのって……くすぐったくて……でもって、ちょっと緊張する。
時々、耳に擦れる指や、髪の間を滑る手のひら……
「リヒトの髪は柔らかだな〜」
と言われると……少し嬉しくなった。
よしっ!と、すっかり髪は乾き、解放される。
俺は照れたように笑うしか無くて…ありがとうと小さく伝えると…
なんとなく俯いてしまう。
そんな俺の反応を他所に、んじゃ、交代でお風呂入ってくる〜と、俺を一人残して、さっさとバスルームに、るい君は消えた。
俺はソファに座ってテレビを付ける。バスルームからは、シャワーの音がしてきて……つい、その姿を想像してしまった。
俺は慌てて、その音を消すため……少しだけボリュームを上げた。
膝を抱えるように座ると、画面を見つめる。
ふぅ〜って言いながら、るい君が出てきた。ホカホカの彼は、頬を赤く染めていて、ちょっと可愛い。
俺は待ち構えたかの様に、ドライヤーを手に振る。
「はい、交代ですよ」
「よろしくぅ〜」
と、るい君は、トンっと軽やかに俺の前に座る。
俺よりかなり背の高い彼だから、見上げるようになる。
ドライヤーのスイッチを入れると、弛緩した彼の身体が俺に少しもたれてきた。
「なんか、乾かして貰うのって……気持ち良いな〜」
満足そうな声が聞こえてくるので、俺は嬉しくなって、彼の髪をすいて、ドライヤーを当てながら、
「暑かったり、痒かったりしないですか?お客様ぁ〜」
口調を少しかしこまって話してみる。
「ふふふっ、サロンごっこ?……大丈夫です。凄く気持ち良いです、さすがプロですね!」
「ええ、こちとら、これでメシ食ってますからねぇ〜オホホホッ」
「なんだよ、それ。急に(笑)フフフッ」
このままずっと、じゃれていたかったけど、乾いてしまったので、ゆっくりとブラッシングしてから終わりにした。
「ありがとうな〜よし、今日も頑張ったし!じゃ、ちょっと飲むかぁ〜」
と、キッチンへ行くるい君を見て、
俺も、持ってきたつまみを出そうと、自分のリュックを置いてあるとこに向かう。
リュックを手に取ると……
あれ?
なんか……黄色い…物が…
ん?
るい君をデフォルメされたキャラクターの、ぬいキーホルダーが、俺のリュックに付けられていた。
「るい君?これ?え?えっ?いつの間に?」
キッチンから少し大きめの返事が返ってくる。
「見つけたぁ?へへへっー。あ〜、それな〜、さっきリヒトがお風呂入ってる時に付けた!担推しでよろしく!外したら泣いちゃう(笑)」
俺は、そのキーホルダーを見つめる。
可愛いじゃんコレ……
そして、るい君自らが付けてくれた……という事が、驚きと多幸感でいっぱいになる……
思わずニヤケてしまいそうな頬を引き締める。
「外せるワケないよ……」
小さく呟いた。
なぁにぃ〜?って、キッチンから聞かれた。
「いや、大事にするよ。ありがとう」
大きめな声で、返事をした。
るい君が、パタパタとこっちにやって来た。
「素直〜!リヒト、可愛いな〜!良し、もっと、10個くらい?ジャラジャラ付けるか?」
「え?遊んでる?俺で遊んでる?」
「いや?楽しんでるだけ(笑)リヒトのキーホルダーも一緒に付けたら……動く度に、チュッってするんじゃね?お!これは、うん、なかなか萌えるな!」
と、顎に手を当てて、納得顔のるい君。
それも悪くないかも……と、俺も一瞬は、思ったけど……
揺れる2人のキーホルダーを想像したら、恥ずかしいから……
てか、バレバレになるじゃん!
それは無理だと思った。
「いや、それは……あの、遠慮します(笑)じゃ、今度、俺の特大ぬいを持ってきたげるよ……ぜひとも抱いて寝てくれ!」
「あ、あ、あ、アリガトウ……」
「なんだよぉ〜俺からは、要らないって、どゆこと?」
「ハハハッ、いや、それなら、ぬいより、本物を抱えて寝るわ〜」
冗談でも、めちゃくちゃドキッとする事を言ってくる……ズルい。
テーブルの上は、俺が持ってきたお菓子や、つまみと、ビールやら、缶チューハイが並んでる。
カンパーイと言いながら、プルトップを開ける。プシュっと良い音が鳴る。
「お!コレ、好き〜上手いよなぁ〜」
俺が持ってきたワサビチップスの包装をバリッと開くるい君。
そう、この間……上手い〜って美味しそうな顔で食べてたから……買ってきたんだけど……正解だったな。俺はワサビとか、辛い系は、少し苦手だから……
お酒でも、チョコレートとか食べる派だからなぁ。
何から食べようかなぁ〜って、手を伸ばした俺の目先に…
目が釘付けになる物が1つあった。
ポッキー……ポッキーがある。
この間、チュッてしてしまった事が脳内再生され……1人で慌てる。
慌てるな、俺……ポッキーは、普通に食べたら良いんだからな……
「何?リヒト、ポッキー見てる?あ?思い出した?この間のゲーム!もうっ、ヤラシイなぁ〜」
そんな事言いながら、ポッキーを開封した彼は、1本取り出すと……ポリポリ食べる。
「違うしっ!俺はポッキーが大好きなだけだし〜スィーツ男子だもんっ!」
ポッキーゲームしよ?って言われなくて、ホッとしたような……少しだけ残念な気持ちで、俺も1本取ると下を向いてポリポリ食べた。
「ハイッ!」
ん?と、るい君の方を見ると……ポッキーを加えて、ニヤニヤしてる。
「いや、ハイッて……しないし!」
意地を張って、俺はポッキーを手に取りポリポリと食べる。
るい君は、ニヤケたまま、ポッキーを食べながらお酒をぐびぐび呑んでいる。
テレビ画面は、CMになり、ボーッと画面を見つめたままで、ポリポリと食べていると、急に目の前にるい君の顔が現れ、俺の食べてるポッキーの端を咥えられた。
えっ?と思ってると、どんどん食べられて、ギリギリ、唇が重なる手前で、離れて行かれた。
俺は、突然の事への驚きに、目を見開いたまま、るい君を見ていると、
「顔真っ赤で、リヒト可愛い過ぎ!油断してただろ?」
笑いながら、口の中のポッキーを咀嚼している。
その後も、俺がポッキーを食べ始めると、横から、不意に咥えてきて、俺のポッキーを奪う……という、なんかゲームみたいになってきて。
取るなよ〜!俺のだ!
いや、俺のだ!と、何度もやり取りしてる内に、少し慣れてきて……
完全に油断していた俺は、何度目かの、ポッキーゲームに、またか……と
取られないようにドンドン食べ進めていると、急に唇が重なった。
うわっ!距離間違えた!と、頭を後ろに引こうと思ったのに、るい君の手は、なんと、俺の後ろ頭を抑えていて、重なったままの唇は、一向に離れてくれない。
そのまま……
るい君の舌が、俺の唇を押し開いて挿入されてきた。
俺の頭はパニックになりかけていてるのに、余裕そうなるい君は、俺の口腔内を舐め上げる。
そして、ポッキーの欠片を上手に舌で舐め取られ。
俺の口の中にあったポッキーは、るい君の口の中へと消えた。
チュッっという音と共に……やっと離れた唇。
るい君は、満足そうにポリポリと噛んでいる。
「甘ーいね。ポッキー」
「な、な、何すんだよぅ!!もうっ!るい君。酔ってるの!?」
「ん〜?ちょっとだけ?でも、なんか……リヒト見てたら、チュウしたくなったんたもんっ!」
「だもんっ!って……可愛いく言われてもな…うー…」
自分でも顔が真っ赤になってるのが分かるくらい…頬が熱い。
「ダメ?リヒトの唇、柔らかくて気持ち良い。それに、知ってる?僕……結構キス上手だよ?」
「知らないよ……そんな事、公式のTwitterにでも上げてるわけ?」
ワケのわからない会話になってくる。
俺の心臓の音だけが耳に届いてる。
「ううん……リヒトだけに教えてあげるよ?」
そんな事を言う、るい君の目付きは……急に隠猥に光る。
そんな事を言われると思ってなかった俺は、思わず後ろに身体を引く……
が、壁に後頭部が当たり……コツンと音がした。
るい君は、俺を逃がすまいと、片手で壁に肘から手のひらを押し付ける……
いわゆる、壁ドンの洗礼を俺は受けていた。
「え、壁ドン?ファンサ?」
「そ、ファンサ……僕のぬいキーホルダー付けてるの見たよ。キミは、僕のファンなんだろ?」
今度は何ごっこが始まったんだよ……
絶対、コレ酔っ払っててるよ〜るい君。
いや、そもそも、キーホルダーを付けたのは、るい君だし……
遊びなのか、本気なのか判断がつかない俺は、ようやく答える。
「はいっ!大ファンですっ!」
辛うじて、笑顔を作ると……
ここは、乗ってみるか……と、俺もいつものノリで言い返す。
「そうかそうか……うんうん。キミは、僕を担推し?」
「はぃっ!るい君、担推しですっ!」
可愛く言ってみる。
顔面偏差値高めのるい君の顔は、真直にあり……俺は、感情を押し殺しながらも、止まらない心臓をドキドキさせながら、見つめていると。
ニヤリと艶やかな笑みを浮かべた、るい君から
「そんな、キミにプレゼントがある……」
は?と口を開くと同時に俺の唇は、またもや、るい君の唇で塞がれてしまった。
ヌルヌルと蠢く舌に上顎を舐められた瞬間、甘い声が漏れ出てしまう。
「んんっ」
少し苦い、お酒の味がする……
ちょっと待って……と言いたいのに……
塞がれた口からは
「ちょ、むむっ、んっんっ」
と、曇った声しか漏れない。
グイとるい君の胸を両手で押すが、以外にも強い力と、体格差でビクともしない……
るい君の両手は壁にピタリとくっついたまま……俺を自分の唇で抑え付けて、壁に押してくる。
俺は前にも後ろにも逃げ場が無くなった。
そのまま、唾液が、混ざり合う音が脳内に響くと、何も考えられなくなってくる。絡められる舌に、俺の意思とは別に、徐々に、るい君に応えようとしてしまう……
ダメ……酔ってる彼のキスを本気にしては……と頭の片隅では思うのに、抗えない。
どのくらい……唇を合わせていただろう。
唇は離れ……彼と繋がる唾液の糸がつーっと伸びたと思うと、プツリと切れた。
愕然とする俺は、抗議の声を上げようとしたが……
なんと、るい君は、ソファにパタリと倒れ……
そのまま……るい君は、寝息を立てて……熟睡してしまった。
俺は1人で……さっきの出来事を反芻しては……自分で、自分を抱きしめた。
荒くなりそうな息を整え……
スヤスヤと眠る、彼を覗き見る。
なんだか、凄く満足気な寝顔に腹が立ってきた。
「おい、起きろ!ベットで、寝ろよ!」
グイグイと揺すり起こすと、
「えぇ、んぁ?」
のそのそとベットに動いていく彼を見て、俺は頭を抱えた。
なんて事してくれんだよ……
キスの感覚を忘れたくても、何度も脳内をしっかりと駆け巡る、さっきの出来事。
俺の片思いは、このまま隠しておけるのか……普通に接する事が出来るのか不安になっていた……
翌朝、何事も無かったかのように話するい君を見て、やっぱり忘れたのか…覚えてるのは、俺だけか…と少しだけ寂しい気持ちになった。
昼から打ち合わせで、他のメンバーのミナミ君に、俺はボヤいた。
「昨日、るい君、めちゃくちゃ酔っ払ってさ〜もう、困ったよ……本人、全然覚えてないんだせ?酷くね?」
それを聞いて、ミナミ君が不思議そうな顔をする。
「いや、るい君は……めちゃくちゃ酒強いよ?あー見えて。前後不覚とかなった事無い!って豪語してたんだけどな……んー、おかしいなぁ……何があったん?」
聞かれても答えれるワケが無く……
「あー、い、いや。そう!ゲロ吐かれただけ……」
「えー、最低……るい君」
ドン引きのミナミ君を見て、してやったり!と思ったけど……
あれ?前後不覚にならない?
じゃ、昨日のは?
えーーーー!!……は?あれって、酔ったフリ?
いや、これ、どっちなのか……怖くて聞けない……
1人で悶々とする……俺だった。
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