執筆不調と綴りたい日々

ニキビと洗顔石鹸

　中学生の頃からずっとニキビに悩まされてきた。孤独な戦いだった。あらゆるスキンケア用品を試し、油物を避け、化粧品にも気を使った。ホルモンバランスを整える漢方も飲んだ。皮膚科に行ったのも一度や二度じゃない。何度もだ。それでもニキビは増え続け、今も尚、私の顔にはニキビがある。

　しかし一時の間、大幅にニキビの数が減ったことがある。それはある石鹸を試した時のことだった。
　大学生の時だったと思う。ある時、いつものようにSNSを徘徊していると、とある投稿が目に飛び込んできた。ニキビにとてもよく効く石鹸が紹介されていたのだが、よくあるニキビ用の高い石鹸ではなく、いたってシンプルな材料で作られた何の変哲もない白い石鹸だった。なにより安いくてデカい。
　もしこの呟きが嘘っぱちだったとしても、そこまで後悔はないだろう。今使っている1000円以上する洗顔料より数百円の石鹸でニキビが治ったらこんなに嬉しいことはない。ものは試しだ。騙されたと思って買ってみよう。
　私はそう思い、東急ハンズでその石鹸を購入した。

　効果はすぐに現れた。多少の突っ張り感はあるものの、頬や顎にできていたニキビは目に見えて減っていった。本当に嬉しかった。これまで何をしても良くならなかったニキビが、石鹸ひとつでこんなにも減ってくれるなんて！
　豆腐のような白くて四角い石鹸を泡立てネットでゴシゴシ擦る作業もなかなか心地良い。私はその石鹸をすっかり気に入り、最後まで使い切った。2個入りだったので、残りの1個を袋から取り出そうとした時、あることに気が付いた。ふと、パッケージに書かれた文字に目を奪われたのだ。そこにはこう書いてあった。

「台所用石鹸」

　私は我が目を疑った。
　私が今まで喜んで使っていたのは洗顔用石鹸ではなく、台所用石鹸だったのだ。大した違いはないのだろうが、私はこの漢字5文字にかなりの衝撃を受けた。ニキビを治すことしか頭に無かったせいですっかり見落としていた。
　しかし、私ばかりが悪いのではない。この台所用石鹸は洗顔用石鹸の棚と同じ場所に置かれていたのだ。

　ショックは受けたものの、私は残りの1個も最後まで使い切った。とはいえ、私の顔面は台所とは程遠いので、それ以降は同じ会社が作っている洗顔用石鹸を使ったり、気分転換にマルセイユ石鹸を使ったりしていた。
　それから暫くの間ニキビの状態は落ち着いていた。しかし最近になって、また奴らは私の顔で猛威をふるい始めた。実は今、少し迷っている。あの台所用石鹸を使えば、またニキビが減るのではないかと。

　また使うべきだろうか。いやしかし……私の顔は台所ではないのである……