じゃがいもパン

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

じゃがいもパン

 職場のトイレでぼーっとしていると、突然頭の中にじゃがいもパンの輪郭が浮かび上がってきた。理由など知る由もないが、突然脳内に現れたじゃがいもパンの存在を不思議に思いながらも、どこか懐かしさを覚えた。  高校時代、毎週木曜日になるとパン屋さんが講堂にやって来てパンを販売していた。木曜日はいつものお弁当ではなく、コンビニでサンドイッチを買うか講堂でパンを買うかだった。じゃがいもパンはその中にあった。丸くシンプルなパンの頂上に割れ目ができており、その割れ目からじゃがいもと振りかけられた大粒の塩が顔を覗かせていた。最初はそれがなんだかよくわからなかった。わからなかったが、その時は他に欲しいパンも売り切れで無かったため、私はじゃがいもパンを手に取ったのだった。  それからというもの、毎週のようにじゃがいもパンを買うようになってしまった。特別美味しいというわけではなかったはずだが、なんだか「昼間の口にちょうどいい」感じがしたのだ。パンの香り、じゃがいもの食感、ちょうどいい塩気。3年間のうちにいくつのじゃがいもパンを食べたのだろう。まあ、思ったより食べていないかもしれない。でも記憶には強烈に残っている。逆に他のパンの記憶は一切残っていない。  しかしだ。肝心なそのパン屋さんがなんという名前だったのか思い出せない。高校名+パン屋で検索してみたところでもちろんヒットしないし、そもそもそのパンの名前自体「じゃがいもパン」だったかも怪しい。もっと凝った名前だったかもしれない。  もう二度と食べられないのだろうか。別にそこまでしてまた食べたいわけでもないのだが、このパンの記憶はこれからも私の頭の中に刻まれ続けるような気がする。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加