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予定は未定
「……旭さん、ロクな死に方しないだろうね」
夜空とレイモンド、日光と日和の行き当たりばったりな珍道中、屍者を倒した後のランチタイムの何だかんだと話が飛んだり戻ったりして、ふと途切れたその時。日和が呆れたように冒頭の言葉を口に出した。話の流れでたまたま出た言葉だとは思うけれど、日光もあながち、それはハズレじゃないような気がした。レイモンドと日和を交互に見やった。言われた当の本人は驚いたのか少しだけ目を瞠り、隣の恋人を見る。
「……別に俺は構わないけど」
「む?」
口の中で転がすようにして言葉を紡ぐレイモンドは、いつもの笑顔。何も考えてはいないはずがないだろうが、何を考えているのか判らないアレ。
レイモンドという人間は、とても警戒心が強い。初対面に馴れ馴れしいのは相手の懐に潜り込む策で、自分の本心を曝さない為の常套手段。柔和な雰囲気で臆病性を隠し、ふざけた態度で警戒心を掻き濁し、奔放な振る舞いで他人を選別する。誰にでも懐きやすそうなフリをして、実際に本当に胸襟を開くのは五指にも満たない人にだけ。
その中の一人が、隣にペンギンのぬいぐるみ(廃デパートからの戦利品)を膝に乗せた夜空だ。チャラけていながら平静なまま、彼女を見つめていたレイモンドはくつりと笑う。そして自分の横に座っていた夜空の髪に手を差し入れ、くしゃりと撫でた。
「人間はいつか死ぬんだからしょうがないでしょう? ただ、それまでの年月をどう過ごすか、それが問題なだけで」
「だから私は言ったんだけどなぁ?」
「……まぁ。浦風さんと仰る通り、職業上も俺の性格からして人に恨まれないとは言い切れません」
「でも、旭さんやったら人に恨まれるような事したとしても、相手に気づかれるようなヘマはせぇへんとうち思うけど?」
「「……ああ」」
日和とレイモンドの会話に、ふと夜空も混ざる。彼女の口から出た言葉に、日和も日光も思わず納得してしまう。そうだろう、変態だが頭が回る人間が他者にアッサリ腹を見せるわけがない事を。当然の如く、一応恋人である夜空の言い様(だって微妙にフォローになってない)に頷くレイモンドもどうなんだだろうと、ちょっとだけ呆れた気持ちで腹黒ハーフと変人変人ホイホイを見る。
「……まぁ、死ぬ時に隣に夜空さんがいれば、俺はそれで十分だというの話で」
夜空の髪をもう一度撫でながら、レイモンドがニヤリと笑う。そう言われて幽かにうつむいた夜空もひどく幸せそうな顔をするから。日光と日和は二人して溜め息を重ねただけだった。それなら悪くないかな。そう思ったのは、日光だけではないはずだ。上は青空、下は犬や鴉も食いつかない屍者の残骸。束の間の陽気な昼下がり、幸せな秘密を手に入れた日光は、胸焼けした躰に冷めたレモンティーを流し込んだ。
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