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(2)
格上の侯爵家に後妻として嫁いだものの、継子となったクララは友好的で拍子抜けしてしまった。とはいえ、この家庭に問題がなかったわけではない。
「まあ、クララ。今日は先生からの宿題もピアノの練習ももう終わらせてしまったのですね。すごいです」
「今日は、久しぶりに三人で夕食を食べられるもの。ご飯を食べ終わったら、みんなでチェスをして遊ぶのよ。ナンシーは審判ね! あと、わたしが負けそうになったらちゃんと手助けをしてね」
「私もあまり強くはないのですが。一緒に頑張りましょう!」
「おやおや、実質二対一ということかな。困ったな」
そこへ苦笑しながらでもなお涼やかな声が聞こえてくる。クララが小さな子どものように駆け出した。
「だって叔父さまはお強いもの!」
「まあ、ボニフェースさま。お早いご到着ですね」
「君たちに会いたくて、頑張って仕事を終わらせてきたんだよ」
「叔父さま、大好き!」
「こらこら、重いだろう。このお転婆さんめ」
ふたりの姿だけ見ていれば、理想の親子とでもいうべき美しい光景だ。実際は叔父と姪という関係なのだが。クララの父親は、ボニフェースさまの兄なのである。
もともとこの侯爵家は、クララの母親が女当主だった。クララの父親は入り婿としてやってきたわけなのだが、彼は結婚当初から浮気を繰り返していたらしい。
それでも、クララの母親が生きていた頃は問題なかった。役に立たない夫が家に寄り付かないことを歓迎していた節さえあったらしい。侯爵家の名前では借金できないように管理した上で、ある程度自由にさせていたそうだ。
だがしっかり者の女当主がいなくなり、残されたのはまだ成人前の一人娘だけ。ろくでなしの父親に侯爵家を食い潰されてはたまらないと、クララの大叔母が用意した新しい母代わりというのが石女のわたしだったわけだ。
「夕食までにはまだ時間があります。せっかくですから、クララのピアノを聞いてくださいませんか? 一生懸命練習していたんですよ」
「ぜひ一曲お聞かせ願おう」
「一曲と言わず、二曲でも三曲でも。せっかくですから、叔父さま。曲に合わせてナンシーと踊ってくださってもいいのよ?」
「ははは、急にダンスを申し込んだらナンシーも困ってしまうだろう?」
「ええ、そうですとも。クララったら」
こんな素敵なひとにダンスを申し込まれたらどんなに幸せなことだろう。ボニフェースさまとのダンスが実現しなかったことに胸を撫でおろし、そして少しだけ残念に思う。
私と、夫の弟と、義理の娘。不思議な組み合わせかもしれないが、三人での生活はそれなりにうまく回っていた。
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