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それからどれくらいの時間が経ったのか。座り込んでいた私に声をかけてきたのは、ボニフェースさまだった。
「やあ、今日はおみやげを持ってきたよ……って、どうしたんだい?」
「ボニフェースさま、私、クララにひどいことを」
「クララと何があったのか、話を聞かせてもらえないか」
ボニフェースさまに好きなひとがいるという話を聞いたばかり。本人の顔を直視するのは正直辛い。けれど、クララのことを相談できるのはボニフェースさまをおいて他にいなかった。
「傷つけるつもりはなかったのです。一体、どうしたらいいのか」
「考えすぎずに、今僕に話してくれたことを素直に話してきたらどうかな。彼女は賢い子だ。きっとわかってくれるはずだよ」
「そう、でしょうか。母になる覚悟もできていなかった人間が許してもらえるでしょうか」
「血の繋がった両親でさえ、失敗することはたくさんあるよ。父性がまったく芽生えない僕の兄のような人間だっている。偉そうなことを言っている僕だって、昔はどうして自分が兄の尻拭いをしなければならないのかと考えたこともあった」
「ボニフェースさまがですか?」
「今は当たり前のような顔をして君たちに会いにきているけれどね。ナンシー、突然大きな娘ができて、何の間違いも諍いもなく暮らしていくなんて無理な話だ。間違ったっていいじゃないか。失敗して、反省して、謝って、少しずつ本当の親子になっていけばいい」
私とクララと、そしてボニフェースさまと一緒に家族になれたらいいのに。こんなときにまで夢を見てしまう自分が情けなくて、頬を叩いて気合を入れる。
「大丈夫。クララが怒ったのは、君のことが好きだからだよ。嫌いなら、何も期待なんてしない。傷つくのは、それだけ相手のことを想っている証拠だ」
「ありがとうございます。いってきます」
少し驚いた顔をされたけれど、気持ちの切り替えができたことが伝わったのか、ボニフェースさまはにこりと微笑んでくれた。
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