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()して三年、子なきは去れ」  夫だった男は、彼の子どもを宿したという女性を片腕にぶら下げながら、下卑た顔で私にそう告げた。金色の髪をなびかせた女は真っ赤な口紅が引かれた唇を歪ませて、楽しそうに笑っている。 「えー、奥さんかわいそー。まあ、でも若くもないし、美人でもない。その上、子どもも産めないんじゃ意味ないもんね? 大丈夫、あたしが代わりにこのひとのことを幸せにしてあげるから」  子どもも産めないくせに自分の貴重な時間を浪費させたと難癖をつけられて、持参金の返却を渋られたのには驚いたけれど、なんとかお金を取り戻し私は実家に出戻った。もちろん、出来損ないの私の居場所など既にない。 「まったく、嫁き遅れがようやく片付いたと思ったら、また手間をかけさせおって」 「大変申し訳ありません。身の振りどころが決まりましたら、すぐに出ていきますので」 「当然だ、すぐにでも再婚してもらう」 「……え?」 「まさか修道院にでも行くつもりだったのか? せっかくの持参金をどぶに捨てさせるとでも?」 「……でも……あの、……いいえ」 「まったく。何のためにお前を育ててきたと思っている。せめて一族の役に立て」  どうやら私にもそれなりの需要はあるらしい。石女の後妻ならば後顧の憂いなく、体裁とともに給与の出ない使用人を確保できるということなのだろう。  実家に帰った私は、あっという間にまた別の男の元に嫁ぐことになった。
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