ときめきパニック

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「それじゃペア作ってー」  なんて言われてすぐ作れる人はコミュ力が高い人である。私はいわゆる余り物になることが多い。というか毎回である。今日も一人でやることになるかな。 「あの、速水(はやみ)さん」  驚いた。私に声をかけてくる人がいるとは。しかもクラスでそこそこコミュ力が高い男子、白崎(しろざき)くんではあるまいか。顔も行動もイケメン風味な――いや彼の場合はお世辞抜きでイケメンなのだが――クラスでもわりと女子からの好感度が高く、実は私も密かに憧れを抱いている。そんな男子に声をかけられて舞い上がらないわけもなく。少女漫画ではありがちだが自分には関係ないことと思っていた。 「ひゃ、ひゃい!」  いやなんだよ「ひゃ、ひゃい」って。はいと言おうとしたのが動揺のあまりひゃいになった、なんて一昔前のギャグ漫画か。仕切り直したい。 「速水さん、よかったらオレとペア組んでくれる?」 「ひゃ、ひゃい!?」  いや、だからなんだその返事は。さっきの返事の語尾が上向きに変わっただけじゃないか。しかし初めての、それも男子からの、しかもしかも憧れの人からのお誘い――たかが授業のペア組みというだけのことだが――である。動揺するなという方が無理な話である。 「あの、速水さん?」 「ひょ、ひょろこんで!」  いやこれもう帰ってしまっていいかな。さっきのは百歩譲ってありだとしても、これはないだろう。『よ』と『ひょ』じゃえらい違いだぞ。 「ぷっ」  しかも笑われたし。やはり私にはまともなコミュニケーションはとれないのか。 「ごめん、速水さん何かかわいいって思っちゃって……」 「……は?」  今この人何と言った? かわいい? カワイイ? Kawaii? どの字で置き換えてもやはり『かわいい』と聞こえた気がする。ええ、私今まで男子から『かわいい』なんて言われたことないぞ。こう言っては失礼だが、白崎くん、あなた視力検査し直した方がいいのでないかい? 「速水さん?」 「ひゃ、ひゃい、ひよさきくん!」 「あはは、オレ、しろざきだよ?」  あってはならない失敗をしてしまった。なんだ『ひよさき』って! でも白崎くん、寛大すぎて、もう語彙が白崎くんだけになる!  そうしてお互いの顔を描くという課題をこなしていく。  白崎くんのイケメンさを何としても表現しきらなければ! 「速水さん、できた?」 「え、ひゃ、……はい、一応……」  さすがにもう間違えるわけにはいくまい。私は白崎くんにとりあえず顔は見せた。 「おっ、やっぱうまいね」 「そ、そう?」  やった、白崎くんに褒められた。これでも美術は得意だもん。 「うん、俺のカッコよさを、こんなに表現できるのは速水さんしかいないよ!」  ときめきを返して。
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