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「紗季さん、矢野さんと喧嘩でもしたんですか?」
今の雰囲気は、どう見ても2人の間に何かあったようにしか思えない。
いつも仲良くしている光景しか見たことがない2人だから気になるし、心配だ。
「ん…、ちょっとね…。後で話すから。」
「…わかりました。」
この場で多くを語ろうとせず、苦笑いした紗季さん。
何があったのか気になるところだけど、後で話すと言うならその時まで待つしかない。
でも、一体2人に何があったのだろう。
ちょっとした喧嘩ならいいけど…。
パソコンの画面に向かい、頼まれていた資料の作成に取り掛かろうと、キーボードに触れた時。
「すみません。」
あたしのカウンター前にやって来た人物に声を掛けられ、顔を上げる。
ネイビーのスーツにボルドーのネクタイ。
ダークブラウンの緩いウェーブがかかったセンター分けの髪型。きりっとした眉毛に綺麗な奥二重のアーモンドアイ。
その整った顔立ちの人物と目が合った時、この顔は見覚えがあると思った。
「今日面接予定の…、って、あれ?」
どうやら目の前にいるこの男性は、あたしと同じことを思ったようだった。
「え、もしかして…、金沢…?」
そう言った彼の口元から見えた右側の八重歯を視界に捉えた瞬間、確信した。
「…常盤、くん?」
あたしの記憶にある人物の名前を口にすれば、
「そうそう!金沢、久し振り!」
彼が見せた笑顔は、あたしの記憶にある常盤くんのままだ。
「すげー偶然だな〜!金沢、ここで働いてんの?」
「うん。そうなの。常盤くんは?なんでここに?」
「俺は、今日面接。」
「面接?」
「そ。ここの自動車学校の指導員募集してたから、面接来た。」
「あ…、そうだったんだ…。」
そういえば、水曜日に面接希望者来るって校長言ってたっけ。
郁哉のことばかりですっかり忘れてた。
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