4月⑭

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あたしが何を言っても郁哉はあまり納得していないような反応をする。 あたしは立ち上がって向かいに座っている郁哉の背後に向かった。 「樹理亜さん?」 そして、郁哉を後ろから抱き締めた。 「あたしはこうして郁哉と一緒にいられるだけで十分だから、本当に気にしないで。」 ぎゅっと抱き締めた郁哉の身体は、出会った頃より大分逞しくなっている。 本気で夢のために頑張っている証。 そんな郁哉が愛おしくて、あたしは頬を寄せる。 「俺、常盤さん見るとだめかもしんない。」 あたしの腕に手を添える郁哉は、また小さく溜め息を吐いた。 「なんにもないよ常盤くんとは。」 「知ってる。つか、なんかあっても困る。」 「あ、それもそうだね。」 「あの人、牽制しても全然通用してないからさ。」 「郁哉はいろいろ深く考え過ぎだよ。」 「樹理亜さんはもう少し自覚しておいて。」 「わかってる。」 紗季さんにも同じようなこと言われたから、それなりに考えて行動はしてるつもり。 「明日の飲み会、帰り俺迎えに行ってもいい?」 「でも明日って確か、大我くん達と遊ぶ約束してるんじゃなかったっけ?」 明日は、高校時代の友達と会う約束をしていると郁哉から聞かされている。 久々にみんなで集まるだろうし、あたしの迎えで時間拘束されてしまったら楽しめないのでは?
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