4月⑯

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どこに行くか知らされないまま郁哉は車を走らせて、10分ほど経った時。 居酒屋や飲食店が多く並ぶ繁華街を通過する。 煌びやかなネオンがあちこち目立つその通りのとある建物の付近に来て、初めて郁哉がどこに行こうとしているのか理解できた。 そして、案の定車はその建物の駐車場へ入る。 「…ホテル…泊まるの?」 その建物は一見ビジネスホテルと変わらないようなシンプルな外観だけれど、ビジネスホテルよりモダンで建物外観の頂点にある“HOTEL”と光るネオンを見れば、大人なら普通のビジネスホテルとは違うものだと認識できる。 「…イヤ?」 既に駐車場でバックして車を入れている郁哉は、あたしの方を見ることなく尋ねる。 今、その質問に対してあたしがイヤだと答えたら、ここからすぐ出るのだろうかと、疑問を抱く。 「…イヤ…では…ないけど…。」 なんで急にホテルなんか行こうと思った? 泊まるなら別にあたしの家でも構わないのに。 本当はそう言いたかったけど、なんとなく言えなくてあたしは膝元に視線を落とす。 「…じゃあ、行ってもいい?」 駐車スペースに車を駐めた郁哉は、あたしの頭をそっと撫でる。 優しく微笑む郁哉を見つめながら、あたしは首を縦に振った。
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