4月⑯

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週末の夜のこの時間なんて満室なんじゃ、なんて心配しつつ建物の中に入ると、たまたま1室空いていて迷うことなくその部屋を選んだ。 こんなホテルに来たのは数えるほどしかないし、久々だけど郁哉は? 有人フロントで普通のホテルと大差ないのもあるけど、やたらスムーズに対応できてるし、あたし的にはこういうところは慣れないから緊張するけど、郁哉はそういうのも感じられない。 初めてじゃなかったりするのかな…とか、余計なことをあれこれ思ってしまった。 部屋の中に入ると、白と黒が基調のシンプルな部屋でシティホテルと変わらないような空間だった。 「わりといい部屋だね」と、すぐ後ろにいる郁哉に声を掛けたのとほぼ同時。 「…っ、」 あたしは郁哉の腕に背後から抱き竦められ、身動きが取れなくなった。 「…早く樹理亜さんを抱きたい。常盤さんと一緒だった時間全部忘れるくらいめちゃくちゃにしたい。」 郁哉は頬擦りするみたいにあたしの頬に顔を寄せ、更にギュッと力が込められた腕に手を添える。 その腕はまた少し逞しくなっていて、郁哉の日々の努力が伝わった。
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