キミの誘惑、甘い罠─bitter─

５月①

晩御飯は郁哉が作ると言い、途中スーパーに寄って食材を少し購入した。

消防署では食事を作ることもあるから、料理もできるようになりたいと話す郁哉は、週末帰ってきた時、お母さんから料理を教わっているのだという。

家に着いてから、ハヤシライスを作ると言って、郁哉はさっそくキッチンに立った。

「なんでハヤシライスなの？」

キッチン台に牛肉、玉ねぎ、マッシュルームの水煮、ハヤシライスのルウを並べているところを覗きに行き尋ねれば、

「カレーより簡単だからね。」

と、郁哉は得意げに笑って答えた。

しかも、「まだ作ったことはないけど」と付け加え、無邪気に笑う姿がなんだかかわいくて、久々に母性反応がくすぐられて胸がキュッとなった。

わりとなんでもこなせる万能タイプの郁哉のことだから、カレーより簡単に作れるハヤシライスはあっという間にできちゃうんだろうな…と思っていたら、玉ねぎが目に沁みてうまく切れないと、そっちで苦戦していて、思わず吹き出してしまった。

それでも「ひとりでやるから樹理亜さんは手伝わなくていい」と言ってきかず、リビングに追いやられてしまった。

そんな郁哉が頑張って初めて作ってくれたハヤシライスは、とても美味しかった。