5月③

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「隼人が『結婚式も新婚旅行もないからこれだけは買わせてくれ』って言って、くれたんだけどね。」 「さすが矢野さん。太っ腹。」 「太っ腹も何も、あたしは要らないって言ったのよ?これからいろんなことにお金かかるのに、婚約指輪にお金掛ける余裕あるなら、他にまわしたいって。」 「えー…、いいじゃないですか。」 「そう?半ば強引にジュエリーショップ連れて行かれて結婚指輪も一緒にオーダーして、こっちはビックリよ。」 「ふふ。矢野さんらしいですね。」 予期せぬ紗季さんの妊娠と結婚だっただろうけど、ある程度紗季さんとの将来を描いていた矢野さんのことだ。将来のために貯金していたに違いない。 だからこそ、婚約指輪にもお金を出せたのだと思う。 「隼人ってば強引だから、結局なんだかんだであたしも流されちゃったんだけど。」 「でも、そういう矢野さんの強引なところも実は紗季さん好きですよね?」 「…まぁ、ね。」 文句を言いつつも、少し照れ臭そうに頷いた紗季さんは、なんだかかわいらしい。本当に矢野さんのことが好きなんだと伝わる。 そして、何よりも幸せそうでこっちも嬉しくなった。 「なんか、いいですね。」 「え、何が?」 「婚約指輪とか憧れっていうか。いいなぁって。」 「なに言ってんの〜金沢はまだ22なんだし、これからこれから。」 「そうかもしれないんですけど…。」 この先、婚約指輪とかもらえる時がくるのかな?とかふと思ったりして。 郁哉とは将来の約束みたいな話をしたことがあったけど、この先どうなるか分からない。
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