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『ビデオ通話で顔合わせると、会いたくなるからだめな気がして。』
「それじゃあビデオ通話なんてやれないんじゃない?」
その妙な理由に思わず笑ってしまった。
『うん。だから、ビデオ通話とかまどろっこしいのはやめることにした。』
「そっか。」
『そういうわけで、会いに行っていい?』
「え、これから?」
『そう。これから。だめ?』
「だめじゃないけど、今からだと面倒じゃない?」
チラリと時計を見れば、7時55分。
家にいる郁哉が今からあたしのアパートに来るとしたら、8時半頃になるだろう。
もちろん、郁哉には会いたいし、来てくれるのはすごく嬉しいけど。
『面倒じゃないよ。つーか、もう来てるしね。』
「へ?」
スピーカー越しに、車のバック音が聞こえる。
『着いたよ。樹理亜さんのアパート。』
「うそ。」
『嘘じゃないから。ドア、開けてみればいい。』
「ホントに?」
『ホントだってば。』
半信半疑で玄関に向かい、ドアを開けてみる。
ドアを開けた先。
そこには本当に郁哉の姿があって。
「だから言ったじゃん。」
その声は、スピーカー越しのものではなくて、目の前にいる郁哉が喋っている声。
そして、得意げに笑ってみせるその顔に、胸がキュッとなる。
──あぁ。もう。そういうところ、ほんとに好き。
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