4月④

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郁哉は高校卒業後、自分の車を購入した。 それ以来、デートする時は郁哉の車で出掛けることが増えて、今日も郁哉の車でグレイシアに行くことにしている。 あたしの車で郁哉が助手席に乗るといつもあたしに触れてきていたけれど、郁哉が自分の車を運転する時はそれがほぼなくて。 免許取りたてだし、多分運転に集中したいだけなんだとは思う。だけど、実はそれが少しさみしかったりする。 あたしから触れたら、きっと…いや絶対郁哉は応えてくれる。でも、なんだか恥ずかしくて自分からなかなかできずにいた。 「なんか、すげー樹理亜さんに見られてる気がするけど。」 「え…?」 グレイシアに向かう道中。 車が走り出してからずっとあたしは郁哉の横顔を見つめていたから、さすがに郁哉は気になったのだと思う。 「どしたの?」 「……、」 時々街頭やライトの灯りで照らされて見える郁哉の横顔好きだなぁ…とか、運転してる姿かっこいいなぁ…とか、あたしに触れてきてくれないかなぁ…とか。 そんなこと思いながら見てたんだけど、なんだか口にするのは恥ずかしいというか、照れ臭いというか。 「言いたいことあるなら聞くよ?」 ちょうど赤信号で停車した時。郁哉はこちらを見てふっと笑い首を傾げる。 「あのね。」 「うん。」 「…手…。」 「手…?」 「手…繋いで…たい。」 郁哉の顔を見て言えなくて、あたしは膝下に視線を落として思っていたことを伝える。 こういうの、口に出して伝えるのってものすごく恥ずかしい。自然と顔が火照ってくる。
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