4月④

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一瞬目を見開いた郁哉。直後、それは優しい笑顔に変わる。 「樹理亜さんもそういうこと思ってくれるんだ?」 そう言った郁哉が前を向いたのとほぼ同時に、信号が青に変わる。 そして、あたしの右手が郁哉の左手に握られて胸がトクンと、小さく音を立てた。 「かっこ悪くて言いたくなかったけどさ。」 「うん?」 「俺、まだ運転不慣れだから樹理亜さんの手握りたくても長くは握ってられる自信なくて。」 「あ…、そうだよね…。」 「それに、一度手とか握るといろいろ止まらなくなりそうだし。」 「え…?」 「手だけじゃなくて、他も触りたくなんの。だから、我慢してたのもあったけど、でも言い出したの樹理亜さんだし、好きにさせてもらおうかな。」 いたずらっぽく笑った郁哉は、握っていた手を一旦放し、その手をあたしの太腿に這わせる。 「あ…、生理なんだっけ。下は触れないね。残念。」 「生理じゃなくても、運転中はそういうのなし。事故ったらシャレなんないからね?」 「はは。そっか。」 「じゃあ、今日は手だけで我慢する」と付け加えて、太腿に這わせていた手を止め、またあたしの右手を握った。
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