4月④

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「あ…、常盤くん…。」 テーブル横で立ち止まってあたしを見下ろしていたその人物。 それは、常盤くんだった。 「またまたすげー偶然。金沢、ひとり?」 「ううん…。ひとりでは…ないけど…。」 満面の笑みであたしを見る常盤くんは、キャップを被っていてチャコールグレーのパーカー姿。 先日のスーツ姿もかっこよかったけど、今日みたいなラフな格好もかっこよくてよく似合っている。 「もしかして彼氏と一緒とか?」 「うん…まぁ。」 「へぇ…。つか、その彼氏は?」 「ちょっと今、席外してて。」 「ふーん…。」 なんであたしの彼氏のことなんか気にするの? 常盤くんには関係ないよね? しかも、まだ何か言いたそうだし。 なんかやだなぁ。 そんなことを思っていたら、「流星、先行ってるぞ」と、常盤くんと一緒にいた男の人が常盤くんに声を掛ける。その声掛けに「あぁ」と常盤くんが返事をする。 こちらをちらりと見た後、レジへと向かっていったその男の人は、明るめなブラウンヘアに、グレーのカラコンが入った瞳が印象的な綺麗な顔立ちの人。 そして、その場にはオーバーサイズのスウェットを着た黒髪ショートヘアの女の子もいて、あたしを見て軽く頭を下げて男の人を追うように歩いて行った。 「そうそう。飲み会のことなんだけどさ…、」 「お待たせ。」 話をしようとしていた常盤くんの言葉が遮られ、その声の主に視線を移動させた常盤くん。 それは、この場に戻ってきた郁哉だった。 郁哉は常盤くんをちらりと見た後に軽く頭を下げ、平然とあたしの向かいの席に腰を下ろす。 「…金沢の彼氏?」 常盤くんはあたしと郁哉を交互に見てそう尋ねたから、「うん」と答えた。 「はじめまして。末永です。」 「どうも。常盤です。」 常盤くんを見上げる郁哉。お互い笑顔で名乗ってはいるけど、なんだか妙な空気になっているのは気のせいだろうか。
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