4月④

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「飲みの話、後でまた連絡するわ。」 「わかった。」 「じゃ、またな。ごゆっくり。」 「うん。」 郁哉に向かって軽く頭を下げ、常盤くんは出入り口の方へと向かっていく。 あたしは早くに常盤くんの後ろ姿を追うのをやめたけれど、郁哉は常盤くんが店内を出るまでその姿を見ていた。 「…何食べるか決まった?」 視線をこちらに戻した郁哉は、すぐメニュー表に視線を落とす。 「まだ決めてない。パスタにするかオムライスにするか迷ってたところ。」 「そっか。」 「郁哉は何にする?」 「俺は…どうしようかなぁ…。」 「……、」 「……、」 ふたりでメニュー表を眺めてしばしの間、沈黙になった。 「…さっきの人。常盤さん…だっけ?」 「うん。」 その沈黙を破ったのは郁哉の方。 そして、視線はお互いまだメニュー表に落としたまま。   「あの人…、樹理亜さんに気あるよね?」 「え?」   突拍子もない発言に、思わず顔を上げて郁哉を見る。 「樹理亜さん、気付いてないんだ?あの人、めちゃくちゃ俺に敵対心持ってたよ多分。目笑ってなかったもん。」 メニュー表に視線を落としたままの郁哉は、苦笑いを浮かべている。
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