4月⑤

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4月⑤

「んっ…、いく、やっ…、ちょっと、待って…、」 「…待たない。」 グレイシアで食事をして、アパートに帰ってきて部屋に入るなり、郁哉に腕を引かれたかと思えばそのまま強引に唇を塞がれた。 最初から咥内に舌を侵入させて角度を変えながら繰り返されるその口付けは、息をするのもままならないくらいの勢いで。 腰に回されていた片方の手が、胸元へ移動して膨らみを撫で上げる。 こんなふうに、なんの前触れもなく迫られるのは初めてかもしれない。 いつもと違うちょっと強引な郁哉も嫌いじゃない。 嫌いじゃないけど、でも思うように呼吸が出来ないからさすがに苦しくて。 「ふっ…、い、くや…くる、し…っ、」 胸元を押して訴えてみると、啄むような口付けをしてからゆっくりと唇が離れた。 そして、あたしを見下ろす郁哉と目が合う。 キスの後はいつも優しく見つめてくれるけど、今日の郁哉は違った。 口角は上がっておらず目も笑っていない。なんとなく怒気を含んでいるようなそんな表情。 「郁哉…なんか…怒ってる?」 「怒ってる。」 「なん、で…?」 「常盤さんと飲み会の約束なんかしてるから。すげーおもしろくない。」 あたしを腕の中に閉じ込めて、ぎゅっときつく抱き締める郁哉は、ちょっと不貞腐れたような口調でそう言った。
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