4月⑤

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「…樹理亜さん…、大丈夫?」 遠退いた意識が戻った時。 あたしの隣に横になっている郁哉に見つめられながら、頭を撫でられていた。 「大丈夫。」 「そっか。よかった。」 あたしの返答を聞いた郁哉は、いつもみたいに微笑んであたしの前髪を上げ額にチュッと口付けを落とす。 痙攣ぽく止まらなかった身体の動きが、嘘みたいに落ち着いている。 胸を攻められただけなのに、あんなふうになったのは初めてで。 自分にも驚きだけど、あんなふうにさせた郁哉にも驚かされる。 あたしを知り尽くしているからこそだとは思うけど、まだ19歳の彼の経験値がやっぱり気になってしまう。 余程訊こうか迷ったけど、前にも経験云々の話を尋ねたことがあったから、敢えて訊くのをやめた。 「樹理亜さん、シャワー借りていい?」 「うん。バスタオルとスウェット、脱衣場に置いてあるから使って。」 「ありがと。」 起き上がって何事もなかったかのように会話を交わし、そのままお風呂場へと向かう郁哉の背中を見届けてから、あたしはクローゼットからパーカーとレギンスを取り出してそれに着替えた。
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