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「…なんで、ですか?産まないだなんて…。」
だって、紗季さんと矢野さんはお互い好きで付き合ってるんだし、その好きな人との赤ちゃんだったら産みたいと思うのが普通なんじゃないの?
「自信がないの。」
「自信?」
「自分が結婚するとか、母親になるとか想像できなくて。いろんなことが急に変わることもこわい。生理こないなとか思ってたら、妊娠判明して悪阻きて体調悪くなるし、そういう変化もなんか耐えられないっていうか…。」
「……、」
「隼人に結婚しようって言われた。子供も産んでくれって。でもあたし、結婚も出産も考えられなくて断っちゃった。」
「それで…ケンカっぽくなってるんですね…。」
「ん。話まとまらなくて今揉めてる。」
「そうだったんですか…。」
なんて返したらいいか分からなくて言葉に詰まる。
そんなあたしを見て紗季さんは、「あ、ごめんね。お昼にこんな話」と、言って笑顔を取り繕った。
紗季さんより年下だし結婚も妊娠も未経験だし、あたしがどうこう言える立場じゃないから、やっぱり何も言えなくて。
その後、紗季さんは話題を変え、いつものように振る舞う。
あたしはそれに合わせたけれど、なんだかそれがかえって切なかった。
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