4月⑥

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「家まで送る。」   立ち上がった紗季さんの腕を掴んだ矢野さん。 「なに、言ってんの。矢野さん、午後イチ教習入ってるし。」 「教習担当なら代わってもらえる。」 「そういう問題じゃない。」 「お前が心配なんだって。」 「みんな怪しむでしょ。ひとりで帰れる。大丈夫。」 「門間…、」 「本当に、大丈夫だから。」 紗季さんは、自分の腕を掴んでいた矢野さんの手を解く。 「矢野さん。あたし…矢野さんのそのタバコの匂い、具合悪くなるから…タバコ吸った後とかなるべく寄らないで。」 「……、」 「校長に早退するって言って来るから。金沢、あとはお願いね。」 矢野さんの方を全く見ようとせず、あたしにだけ視線を向けてそう言った紗季さん。     「わかりました。ゆっくり休んで下さい…。」 そして、「じゃあ」と言って、紗季さんは休憩室を後にした。 「…なん、だよ。くっそ。」 紗季さんが休憩室を出て行った後。 チッと舌打ちをして頭をワシャワシャと掻き、ものすごく不機嫌な顔で矢野さんはドカッと椅子に腰を下ろす。 矢野さんのこんな姿、初めて見たかもしれない。
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