4月⑥

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紗季さんに渡しそびれてしまったサイダーのペットボトルとミルクティーの缶をテーブルに置き、あたしは無言で矢野さんの向かいに座る。 すると、ポケットに入れていたスマホが振動したから、それを取り出して確認すれば、新着メッセージの通知が表示されていた。 タップしてメッセージアプリを開くと、それは郁哉からのメッセージ。 【土曜日泊まりに行く】 【俺の知らないところで常盤さんに会わないでね】 【またあとで】 郁哉ってば、とことん常盤くんに拘るんだな。 別に常盤くんとなんか会ったりしないけど。 【常盤くんには会わないから心配しないで】 【土曜日待ってるから】 【がんばってね】 郁哉に3通の返信を作成しスタンプ付きで送信し、スマホをテーブルに伏せた直後。 「末永とメッセージやってんの?」 カチャッと缶コーヒーを開栓する音と共に、向かいから聞こえた矢野さんの声に顔を上げた。 どうやら矢野さんは鎮静したようで、いつも通りだった。 「え、あ…はい。そうですけど…。」 「金沢、めっちゃ顔緩んでたから誰とのやり取りかすぐ分かったわ。」 「紗季さんにも同じように突っ込まれました。」 「はは!金沢すげー顔に出てんもん。自覚ないのかか?」 「自然と緩んでしまう感じは…しますけど…。」 「そんだけ末永のこと好きなんだな。幸せそうでいいよなお前らは。」 深い溜め息を吐き、缶コーヒに口を付ける矢野さんは表情を曇らせる。 「…紗季から…俺らの話…、聞いたか?」 しばしの沈黙の後。 手元の缶コーヒに視線を落とし、途切れ途切れに言葉を紡いだ矢野さん。 「妊娠と、結婚の話…ですか?」 「あぁ。」 「さっき初めて聞きました。紗季さんの意思も。」 「…そうか。」 それだけ言った矢野さんは缶コーヒーに口を付ける。 あたしも自分のミルクティーを開栓して一口飲んだ。 ホットで買ったはずのミルクティーは、大分ぬるくなっていた。
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