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紗季さんに渡しそびれてしまったサイダーのペットボトルとミルクティーの缶をテーブルに置き、あたしは無言で矢野さんの向かいに座る。
すると、ポケットに入れていたスマホが振動したから、それを取り出して確認すれば、新着メッセージの通知が表示されていた。
タップしてメッセージアプリを開くと、それは郁哉からのメッセージ。
【土曜日泊まりに行く】
【俺の知らないところで常盤さんに会わないでね】
【またあとで】
郁哉ってば、とことん常盤くんに拘るんだな。
別に常盤くんとなんか会ったりしないけど。
【常盤くんには会わないから心配しないで】
【土曜日待ってるから】
【がんばってね】
郁哉に3通の返信を作成しスタンプ付きで送信し、スマホをテーブルに伏せた直後。
「末永とメッセージやってんの?」
カチャッと缶コーヒーを開栓する音と共に、向かいから聞こえた矢野さんの声に顔を上げた。
どうやら矢野さんは鎮静したようで、いつも通りだった。
「え、あ…はい。そうですけど…。」
「金沢、めっちゃ顔緩んでたから誰とのやり取りかすぐ分かったわ。」
「紗季さんにも同じように突っ込まれました。」
「はは!金沢すげー顔に出てんもん。自覚ないのかか?」
「自然と緩んでしまう感じは…しますけど…。」
「そんだけ末永のこと好きなんだな。幸せそうでいいよなお前らは。」
深い溜め息を吐き、缶コーヒに口を付ける矢野さんは表情を曇らせる。
「…紗季から…俺らの話…、聞いたか?」
しばしの沈黙の後。
手元の缶コーヒに視線を落とし、途切れ途切れに言葉を紡いだ矢野さん。
「妊娠と、結婚の話…ですか?」
「あぁ。」
「さっき初めて聞きました。紗季さんの意思も。」
「…そうか。」
それだけ言った矢野さんは缶コーヒーに口を付ける。
あたしも自分のミルクティーを開栓して一口飲んだ。
ホットで買ったはずのミルクティーは、大分ぬるくなっていた。
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