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「あたし、今日紗季さんに会いに行くんですけど、矢野さんも一緒に行きません?」
「俺はいいよ。邪険にされるだけな気するし。」
「そんなことないと思います。」
「女同士で話したいこともあるだろ。俺のことは気にすんな。」
力無く笑ってそう言う矢野さんを見ていたら、なんだか切なくなる。
だけど、気の利いた言葉は出てこなくてあたしは「わかりました」としか答えられなかった。
「金沢。」
「なんですか?」
途切れた会話を再開させたのは矢野さんの方。
スマホに落としていた視線を持ち上げれば、矢野さんもスマホを伏せてあたしを見る。
「紗季に…、俺の気持ちは変わらないからもう一度考え直してくれって、伝えてもらえるか?」
「…はい。伝えておきます。」
「頼む。」
矢野さんは諦めてなんかいなかった。
紗季さんの考えが変わることを願っているだけで、決して諦めたわけではなかった。
──矢野さんの想い、紗季さんにちゃんと伝えなければ。
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