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「紗季さん、矢野さんとの結婚に踏み切れない理由、実は他にあったりしませんか?」
そろそろ罵られてもおかしくないくらいあたしは紗季さんにしつこく尋ねる。
でも、これを聞き出さないと2人の問題は解決しないと思った。
「…あたし…、こわいんだよね。」
ずっと無言だった紗季さんが、視線を落としたまま口を開く。
「…こわいって…、出産が…ですか?」
「それもあるけど、それ以上に…隼人が離れていくのがこわい。」
「え…?」
矢野さんは紗季さんと一緒になろうとしているのに、離れていくのがこわいってどういうこと?
「例えば、今勢いで結婚して子供産んだとして。後々『こんなはずじゃなかった』って言われて、隼人が離れていくのがいちばんこわい。」
「そんなこと…矢野さん言うわけないじゃないですか。」
「計画的に結婚して子供産むわけじゃないんだよ?予定外なことばかり起きて、きっと隼人は嫌になるに決まってる。」
「矢野さんそんな人じゃないですよ。紗季さんがいちばん分かってますよね?」
「分かるよ。分かるけど、でも結婚も出産もゴールじゃないし、必ずしも幸せになれるとは限らない。何かあった時、『結婚しなければよかった』って思われるのは耐えられない。」
「だからって決めつけなくも…。」
「後々そうなるかもしれないって不安抱えながら生活するのはしんどいし、無理。」
「紗季さん…。」
紗季さんは結婚と出産に対する不安以上に、矢野さんの心変わりをいちばん恐れていたんだ──。
紗季さんの矢野さんへの想いは、あたしの想像以上に深かった。
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