4月⑧

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「金沢が来るちょっと前に隼人にメッセージで知らせたんだけど、来週金曜日に手術の予約した。」 「手術って…、」 「日帰りの妊娠中絶手術。」 「中絶手術…、」 もしかしたら、考えが変わっているかもしれないと勝手に期待していた。 けれど、紗季さんは既に中絶の手術の決意をしていたなんて。 なんだかものすごくショックで、言葉が出ない。 「早い方が簡単にできて、身体の負担も少なくて済むみたいだし。」 「紗季さんは…それでいいんですか…?」 ──大好きな人の赤ちゃんなのに?   喉元まで出かかった言葉だったけれど、それはとても口には出来なかった。 「いいの。産まなきゃよかったって、後々思う方がキツイから。そんな母親に育てられる子供もかわいそうでしょ。」 「……、」 「こう言うのもなんだけど…やっぱさ、雰囲気とかノリとかで付けないでしちゃったらダメよね。バカだなぁあたしも。」 「……、」 自嘲気味に笑った後、目を伏せる紗季さん。 そういえば、矢野さんも同じようなことを言って後悔していた。 互いのせいにすることなく、あくまで「自分が悪い」と言っているところは、想い合ってる証拠だ。 それを思うと余計に切なくなる。 「金沢がそんな顔しないでよ。」 「だって…、」 ふと顔を上げた紗季さんと目が合い、苦笑いでそんなことを言われた。 多分、今のあたしは泣きそうな顔をしているかもしれない。 「これでいいのよ。誰も不幸にならないから。」 それはそうかもしれないけど、果たしてそれが本当に後悔しない選択なのだろうか? 子供を一緒に育てたいと言っていた矢野さんの気持ちはどうなるのだろうか? 考えても考えてもあたしには分からなくて、答えは出なかった。
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