4月⑨

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「それでそんなに落ち込んでるんだ?」 「うん…。」 1週間ぶりにあたしのアパートで郁哉と過ごす土曜日の夜。 ご飯を食べて、お風呂に入ってベッドに寄り掛かりながらまったりしている時。 浮かない顔をしていることに気付いた郁哉は、あたしに「何あったの?」と、声を掛けてくれた。 今週後半は、メッセージのやり取りだけになって直接電話なんかで話せず、紗季さんと矢野さんの話はしていなかったから、今週の出来事を全部郁哉に話したところだった。 「2人が決めたことだし、こればかりは仕方ないよ。」 「そうなんだけど…、あたしはスッキリしなくて。 2人には幸せになって欲しかったから。」 2人の決断に、やっぱりモヤモヤが残る。 だから、そのモヤモヤを郁哉に吐き出したのだけれど。 「あのさ、樹理亜さん。」 「うん?」 「子供産まないことにした2人は、幸せじゃなくなる…とか思ってる?」 「え…?」 「矢野先生と門間さん、産まない選択したからって必ずしも不幸になるとは限らないんだよ?逆に、2人にとってそれがこれから幸せになるための選択だったかもしれない。」 「…幸せになるための、選択…。」 「そう。」 あたしの隣で微笑む郁哉は、あたしの髪を撫でながら更に続ける。 「もしかしたら、門間さんは産まない方がこの先幸せでいられるって思ってるかもしれないね。幸せの価値観って人それぞれだからさ。」 「……、」 「そんな気に病むことはないよ。樹理亜さん優しすぎ。」 「……、」 「大丈夫だよ。あの2人なら。」 「…うん…。そうだね…。」
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