4月⑨

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重なった唇はそのまま深い口付けに変わると思いきやすぐに離れて、閉じていた目を開く。 「え、もう、終わり?」 拍子抜けしてしまったあたしは、思わず思ったことを口にしてしまった。 すると、じっとあたしを見つめる郁哉がクスッと笑う。 「もっとして欲しい?」 「うん…。」 「その先も?」 「うん…。」 「じゃあ、樹理亜さんからねだって。」 「え、なにそれ?」 「俺が、めっちゃくちゃ欲情するくらいねだってみてよ。」 「…できないよ、そんなの。急に言われても無理。」 郁哉って普段優しいのに、急にSっ気入って無茶なこと言い出すから手が悪い。 郁哉が欲情するようなねだり方って、どんなの? そんなの、分かんないし。 「俺的に、樹理亜さんが酔っ払った時の誘い方、すげー好きだったけど。」 「あたし、酔ってたから記憶ないもん。」 「だよね。」 郁哉は多分、お兄ちゃんと行ったイタリアンレストランで結婚話聞かされてワイン飲んで酔っ払いになった日のことを言ってるんだと思うんだけど、生憎その時の記憶は酔っていたせいでほとんど無い。 後々郁哉からその時の状況を聞かされて、驚いたけど。 「…なんでそんな意地悪なの?」 「やー…、樹理亜さんがかわいくて。つい意地悪したくなるっていうか。」 「ひどい。」 「はは!ごめん。」 郁哉の胸元を押して思い切り睨み付けてやったけど、そんなあたしを見て郁哉は楽しげに笑う。
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