4月⑨

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「そんな怒んないでよ。」 「怒ってないもん。」 「怒ってないならこっち向いて。」 「……、」 ふいっと横を向いていたあたしの機嫌を取ろうと、郁哉が距離を詰めてくっついてくる。 ここで郁哉の言う通りにするのは悔しい。悔しいけど、郁哉の方を向いてしまう自分。意思が弱いというかなんというか。 郁哉の方を向いて顔を上げれば、郁哉は満足そうに笑った。 この笑顔にめっぽう弱くて、いつも負けてしまう。 「郁哉。」 「ん?」 「…しよ?」 「え…?」 「エッチ、しよ?」 「…っ…、」 負けてばかりじゃ悔しいから、意を決して恥ずかしいことを言ってみた。 だけど、顔を見られるのは恥ずかしい。膝を着いて郁哉の首に腕を回して抱き付く。 「樹理亜さん。その誘い方、酔った時と同じだよ。本当は記憶あったりする?」 あたしの背中に腕を回して応えてくれた郁哉は、クスッと笑った。 「本当に記憶ない。」 「そうなの?狙ってんのかと思った。」 「狙ってない。」 「そっか。でも、俺その誘われ方、すげー弱い。」 「かわいすぎ」と、言ってあたしを引き剥がした郁哉は、そのままあたしの唇を塞ぎ、すぐ唇の隙間から舌を侵入させる。 「んんっ、」 何度も繰り返される貪るような口付けに、身体が熱くなって奥がじんとしてくる。 いつの間にか床にあたしは押し倒されて、郁哉が覆い被さっていた。
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