4月⑩

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「金沢の紹介は不要だな。もうひとりの受付は門間だから。」 矢野さんにそう紹介された紗季さんは、「門間です。よろしく」と挨拶する。 常盤くんも「よろしくお願いします」と、頭を下げた。 「乗車は2コマ目だから、それまで校内案内しながらいろいろ説明する。」 「わかりました。」   「じゃあ、行こうか。」 「はい。」 矢野さんと常盤くんはそんなやり取りをして、さっそく学科の教室のある方へと歩いて行った。 その姿を見送った後、パソコンの画面に向かう。 「ところで金沢、今日はまたなんで髪下ろしてるの?」 一瞬、ドキリとするような質問をしてきた紗季さんを見れば、何か勘付いているかのようにニヤニヤしている。 確かに今日は髪を下ろしていて、ヘアアクセも一切使用していない。 郁哉に付けられたキスマークを隠すための手段だった。 「え、や…、今日は下ろしたい気分だったので…。」 「金沢はオフの日しか髪下ろさないイメージだけど。」 「違う気分になる日もあるんですって。」 変に動揺しちゃうと余計怪しまれるから、ごく自然に、普通に喋ったつもり。 「てっきりブラウスの襟じゃ隠せないキスマでもあるかと思った。」 ふふふっと楽しげに笑う紗季さんは、絶対確信持って言ってる気がする。 「いやいや、そんなことないです。」 なんて、笑って誤魔化してみたけど。 「あたしの予想。常盤流星初出勤日を迎えるにあたり、金沢に手出しされたくない末永郁哉は、自分のものアピールで襟じゃ隠せないような場所にキスマークを付けた。隠しきれなくて金沢は髪を結びたくても結べない状況にあり、仕方なく髪を下ろしている。どう?」 「……、」 某探偵漫画の主人公みたいな完璧な推理に圧巻。 思わず「すごい!」なんて、言いそうになってしまった。
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