4月⑪

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ロッカーにランチバッグを置きに行ってから、紗季さんと交代するため受付席に戻った。 けれど、そこには紗季さんの姿がない。 トイレかな?なんて思いながら、紗季さんの戻りを待ったけれど、なかなか紗季さんは戻って来ない。 紗季さんの席を見れば、デスクにはスマホがそのまま置いてある。 トイレとか飲み物を買いに行ったとかそれだけだとは思うけど、なんとなく気になって受付カウンターに席を外す旨の告知札を立てて、席を立つ。 とりあえず、トイレに行ってみようと思ってトイレ前まで行くと、ちょうどトイレから出てきた紗季さんの姿が見えた。 けれど、紗季さんは何か考え事をしているのかあたしの姿には気付かない。 「紗季さん。」 近寄って声を掛けて、ようやく紗季さんがあたしの顔を見る。 「あ…金沢…。」 我に返ったようなそんな様子であたしの顔を見た紗季さん。 「休憩時間になっても戻って来ないから気になって。体調悪いですか?」 中絶手術を決めたとはいえ、まだお腹には赤ちゃんがいる。悪阻も完全になくなったわけではないだろうし、体調不良も十分あり得ると思って念のため確認した。 「ううん。そんなんじゃなくて…。」 紗季さんはそう言って首を振ったけれど、体調不良ではないと言うわりになんだか表情が冴えないし、顔色も優れない。 「紗季さん、大丈夫ですか?」 「……、」 「紗季さん?」 「金沢…、」 「なんですか?」 「どうしよう…。」 「どうかしたんですか?」 「なんか、生理みたいに血…出てて…。」 あたしの腕を掴んだ紗季さんのその顔は、涙目になっていた。
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