4月⑬

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4月⑬

「金沢。」 翌日。 ロッカールームを出てカウンター席に着くと、出勤してきたばかりの矢野さんに声を掛けられた。 「矢野さん。おはようございます。」 「おはよう。昨日はありがとな。」 矢野さんはそう言いながら、今日公休で不在の紗季さんのデスクの椅子に腰を下ろす。 「いえいえ。あたしは何もしてないです。常盤くんが病院に連絡してくれたから。」 「いや。金沢が親身になってくれたからだって紗季が言ってたし、俺もそう思ってる。」 「そう思ってもらえて光栄です。赤ちゃんのことも紗季さんとのことも、よかったですね。」 「あぁ。」 頬を緩ませた矢野さんのその表情は、今までとは打って変わって重荷を下ろしたかのようにスッキリしていた。 「お礼にさ、後で飯でも奢るから。」 「え、いいですよそんな。」 「遠慮すんなよ。なんなら末永も誘って4人で行こうぜ。俺も久々に末永と喋りたいし。」 「じゃあ…後で郁哉に話しておきますね。」 「あぁ。食いたいものも考えといてな。」 「わかりました。」     「さて、仕事前に一服してくるかな」と、言って矢野さんは立ち上がる。 「あ、矢野さん。」 「ん?」 立ち上がった矢野さんを見上げて呼び止める。 「言い忘れてました。」 「なにを?」 「ご結婚おめでとうございます。」 あたしのその言葉に目を見開く矢野さん。そして、直後ぷっと吹き出す。 「それ、まだはえーよ。」 そう言って矢野さんは笑った。
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