4月⑬

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矢野さんが喫煙所へ向かった後、今日の配車表を確認していると、大きなあくびをしながらこちらにやって来た常盤くんの姿が目に入った。 「うわ、あくびしてるとこめっちゃ見られた。」 苦笑いしながら、気まずそうにあたしのところにやって来た常盤くん。 「常盤くんおはよう。眠そうだね。」 「昨日、慶太と飲んでたら帰り遅くなってさ。」 「そっか。」 「つーか。俺酒臭くね?一応アルコール残んないようにセーブしたつもりだけど…。」 「大丈夫。匂いはしないよ。」 「ならよかったわ。」 そういうの、ちゃんと気にするのか。 常盤くんって飲み始めたら翌日のことなんて考えずにガンガン飲みそうだし、無頓着なイメージだったけど、そうじゃないんだ。 意外だったな。 「あ、昨日は紗季さんのことありがとね。」 「いやいや。俺はただ姉貴に連絡しただけだし。」 「常盤くんがいなかったらどうしていいかわかんなかったから。常盤くんがいて良かったよ。」 「まぁ、ちょっとした偶然が重なって起きた奇跡ってところじゃね?」 「…偶然が重なって起きた奇跡…。」 たまたま常盤くんがここにいて、常盤くんのお姉さんが産婦人科医で、紗季さんがそこに通っていて。 その偶然が重なったからこそ、危機を乗り越えられて紗季さんは赤ちゃんを産む決意ができた。 ある意味、常盤くんがいたからこそ起こせた奇跡…なのかもしれない。
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