4月⑬

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「ん?なんか俺変なこと言った?」 黙り込んでしまったのが気になったようで、常盤くんは不思議そうにあたしを見る。 「ううん。その通りだよなぁ…っていろいろ思ってただけ。」 「あ、そういうこと。」 「常盤くんって、いい人だね。」 「待った待った。それって俺、今までいい人に思われてなかったってこと?」 「や、そういうわけではないけど…。あたし、常盤くんのこと全然知らなかったんだなぁって思って。イメージと違ってたっていうか。」 「ふーん…。じゃあさ、これからもっと俺のこと知ってよ。」 「え…?」 「俺のこともっと知って欲しいし、俺も金沢のこともっと知りたい。」 冗談混じりで笑いながら喋っているのに、そこだけ冗談じゃないように聞こえて、どう答えていいか分からなくて言葉を探す。 これはなんて答えたら正解? 「あ…、え…と…、」 あたしは別に常盤くんとそんな親しい間柄になろうとは思ってないし、あたしも別に自分のこと知って欲しいとか思っているわけでもない。 だから尚更返答に困る。 「俺さ…──、」 「おー!常盤、来たか。」 常盤くんが何かを言おうとしたところに、喫煙所から戻って来たと思われる矢野さんがカウンター越しから常盤くんに声を掛けた。 何事もなかったかのように常盤くんは「矢野さんおはようございます」と、返事をしたから、あたしもごく自然にその2人のやり取りを眺める。
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