4月⑬

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明日が祝日で休校日な上、紗季さんが不在なため今日は久々に忙しくて、あっという間に時間が過ぎて行った。 そのおかげで仕事中は、常盤くんのこととか余計なことは考えずに済んだから、逆に良かったのだけれど。 夜になったら郁哉に会えるというのを励みに、どうにか乗り切ってもう一踏ん張りしようと気合を入れた夕方。 少し休憩することにして、自販機へ飲み物を買いに向かった。 財布から100円玉と10円玉をそれぞれ1枚ずつ自販機に入れる。 けれど、あと10円必要なのに自販機に入れられる小銭がない。 千円札崩すのやだなぁ…なんて思いながら、財布から千円札を取り出して入れ直そうとしたちょうどその時。 あたしの横から腕が伸びてきて、誰かが10円玉をその自販機に入れた。 ──誰? その姿を確認する。 「…どうぞ。」 横でにこにこしながらあたしを見ていたその人物。 「え…、いく、や…。」 ──それは、スーツ姿の郁哉だった。 「うそ…。なん、で?」 ここに来るなんて聞いてないし、思いもしなかったから今目の前にいるのが郁哉だなんて信じられない。 「家帰んないでそのままこっちに寄ったんだよ。つーか、早く選ばないと。」 「あ、うん。」 郁哉が10円を入れてくれたおかげで、120円のジュースの列のボタンにランプが点いている。 あたしは千円札を財布に戻し、購入予定だったミルクティーのボタンを押した。
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